NOF特許取得の技術

鉄器の天敵は赤サビである。その赤サビ防止の為に、ガラス質のほうろう、化学物質のフッ素樹脂やカシュー塗料等の表面をカバーするコーティングが施されている。

むぐは防錆に化学物質を使わない鉄器だ。

むぐは無垢をコンセプトに作られたモノ。赤ちゃんのような無垢さ、人工物を加えない無垢さ、この土地・風土の中にある無垢さ…むぐはそんな無垢さを大切にしたい。

むぐのnaked oil finish(ネイキッド・オイル・フィニッシュ/以下NOF)*は、鉄器らしい黒い色を再現しながら、コーティングをせずに、鉄自体に隠れた自然の防錆力を発揮する特許技術である。表面を高温で焼き、安定した黒サビ(酸化皮膜)を発生させ、その上に、植物由来の油に食用の炭粉末を混ぜたオリジナルのオイルを使って油慣らしをしている。*特許登録番号第6288638号

鉄器に黒サビ(酸化皮膜)を発生させる技法(naked finish)は、南部鉄瓶の伝統技法「金気止め」がヒントとなって、OIGEN独自に開発した技術である。たとえ300℃以上の高温で調理したとしても有害物質が揮発する心配や、使ううちに塗装が剥がれてしまう不安もない。

何層もの違う金属素材を使った構造や化学塗料が使われていない、100%鋳鉄製だから、廃棄するようなことになっても、そのまま熔かすことで次の鉄製品の材料となる。

釜焼き

鉄器を高温で焼いて、表面に緻密で均一な酸化皮膜(黒サビ)を生成する。

酸化皮膜の形成の様子

油慣らし

植物由来の油に食用の炭粉末を加えて
重ね塗りをして加熱乾燥する。

植物油の加熱乾燥処理後の鉄器

はばき返し技法

「俺が26歳の時にその方法で鍋を作ったよ。型はまだあるんじゃないかな。」

今は独立して石膏原型工房を構えている72歳の「元」手込め職人が言った。

「その方法をはばき返し。って親方たちは言っていたなぁ。」

鋳物工場では砂型を作ることを「込む」と言い、手作業で「込む」ことを「手込め」と言う。「今日はこれを込む」は「今日はこの製品を造型する」の意味である。はばき返しも「込む」技法の一つだ。

明治の頃からこの地に伝わっていると思われる、壺のような形を作るための手作り技法である。

しかし、昭和中期に入ってこの技法は不要のものとなった。壺のような形は、現代的な技法でも簡単に造れるようになり、経済成長が始まった頃には、手間のかかる面倒なものとなって、市場から消えた。唯一の例外を除いて。

OIGENの商品デザインを手掛けていた工芸家の廣瀨愼が、酒の席で手込め職人の千葉太郎に言われた。

「廣瀬さん、少し俺たちが困るような作品を持ってこいや」

ここから、工芸家のアイデアが膨らむ。彼が駆け出しだった頃に、工芸の師匠がデザインしていた「はばき返し」で作った鉄鍋がふと頭に浮かんだ。

「カタチは考えられるけど、どのようにして鋳型は作るのだろう。」

試行錯誤を重ねて、「はばき返し」で作る鍋をデザインし、石膏原型を作り上げた。そして、勇んで千葉に手渡した。

「そしたらね、太郎さんは簡単に作ってしまったんだよ」と懐かしそうに目を細める。「ありがたかったのは、そんなデザイナーの遊び心だけで作った鍋を当時の社長(4代目)が、おもしろいね。と言って許してくれたこと。」

この奇跡的な出来事で「はばき返し」の技法が残ったのだ。

その後、「はばき返し」の鍋たちは、廣瀬の個展に出展するために、OIGENの職人たちが細々と造り、技法を引き継いできた。

もちろん現代では、手のみで造らなくても、機械を使ったり、固まる砂を使ったりすることで、職人がわざわざ「はばき返し」で込まなくても同じようなカタチは造れる。

しかし、OIGENはこの技法を未来に残すことに決めた。「手込め」で作るむぐは、全てに少しばらつきがでる。少しガサついていたり、少し凹みが見えたりもする。人が一人一人違うように、むぐも一つ一つ愛らしくチャームポイントが出てくることをお許し願いたい。

「込む」原点はここにある。製品があることの裏に、人が構想し知恵を出し、愉しみ、それを仲間と分かち合う。ここにものづくりのおもしろさがあると思うからで、OIGENはこの工場でのおもしろさを、使い手のみなさんが受け止めて、さらにおもしろい時を紡いでほしいと願うのである。

釜焼きの技

「南部鉄瓶は、さびにくい」と江戸時代から人々に喜ばれてきた歴史がある。

鉄なのに、そして水を入れるのに、なぜ真っ赤にさびないのか?

「さびにくい南部鉄瓶」の開発は1884年の盛岡の大火が関係していると伝承されている。鎮火した後、焼け落ちた鉄瓶工房に残っていた鉄瓶からは、湯沸かし時にあった金気(鉄臭さや赤サビ)が出ない!それを知った鉄瓶職人が試行錯誤を繰り返し、とうとう「金気止め(かなけどめ)」という錆止め技法をあみだした。

科学的な根拠を持ちえない150年程前のこの地に、職人は、勘と知恵と腕で今に続く素晴らしい「金気止め」技法を生み出し、「釜焼き」と呼ばれるようになる。結果、鉄瓶のクオリティを一気に持ち上げたのだ。

鉄はおよそ900℃の高温で焼くことで表面には、酸化鉄という細かい粒子でできた膜が形成される。これは俗に「黒サビ」と呼ばれる皮膜である。黒サビには、赤サビの発生を防ぐ効果があるのだ。

150年程前から鉄瓶に使われている「金気止め」の正体である。

↑ ちなみに、及源鋳造の戦後のカタログに、「すべての金気止めは本表の一割増しです。」と記載されている。サビを防ぐ皮膜(専門用語では「酸化皮膜」)=黒サビは、当時「金気止め」と呼ばれていたらしい。

さて、生地のままの鉄器は、鈍い光沢のあるねずみ色をしているが、これを900℃という高温で焼くことで、少し青っぽいねずみ色に変わる。

及源鋳造が、2006年にこの「釜焼き」技法の品質を向上させて特許を取得したのが「naked finish(ネイキッド・フィニッシュ)*」である。*特許登録時は「上等焼(じょうとうやき)」。

鉄の赤サビを防ぐためには、鉄製の橋の欄干や車のボディなどを見てもらえばわかるように、塗装が使われる。

同じように、鉄鍋の赤サビを止めるには、ほうろうを焼き付けるとかシリコンフッ素樹脂を塗布するなどが一般的なところだ。

OIGENは、この「釜焼き」を施し、「酸化皮膜=黒サビ」によって赤サビを防ぐ商品を開発している。むぐもその一部である。化学物質に頼ることではなく、150年前の技を自身で鍛えることを選択した。

この特許技術の「釜焼き」を、OIGENでは鉄瓶のみならず鉄鍋にも応用し試行錯誤を続けた時に、この技法は「赤サビを防ぐ」以外にも大きな特徴を要していることを知る。

塗装の層がないことで、高い表面温度が直接素材に伝わりカリっと仕上げてくれる。鍋の油なじみがよく、こびりつきを抑えてくれる。一般の鉄の調理器具に比べて輻射熱が多く、食材の芯に向けてじっくり熱を伝えてくれる。調理方法によっては鉄分の溶出が多いことも分かってきた。「金気止め」を超えた利点に驚かされることに。

その後、「naked finish」を施した上に、更なる錆止めと同時に、南部鉄器の黒色を再現する油慣らしを施した「NOF」を開発し、2018 年に特許を取得。詳細は冒頭『NOF 特許取得の技術』にある通りである。むぐはこの「NOF」で仕上げられている。

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